大町山麓美術館では、AIを活用した「AI学芸員」と一緒に、所蔵作品や作家についての調査・研究を進めています。
といっても、AIに作品のことを聞いて、その回答をそのまま展示に使っているわけではありません。
むしろ、AIを使えば使うほど大切だと感じるようになったのが、「一次資料」と「現物」です。
現在、当館では山下大五郎、足立源一郎を中心に作品を収集・展示しています。作品そのものはもちろん、画集、展覧会図録、記録、作品の裏書、出品歴などの資料を確認しながら、一点ずつ情報を整理しています。
最近は足立源一郎について、まとまった一次資料をAI学芸員にも読み込ませました。
すると、インターネット上にある断片的な情報だけを調べていた段階とは、かなり違うところまで調査できるようになってきました。
たとえば、作品名や制作年代、展覧会への出品、画家の行動や交友関係などについて、資料の記述と実際に当館が所蔵している作品を照らし合わせることができます。
もちろん、AIが答えたから正しい、とは考えていません。
資料に何と書かれているのか。
実際の作品には何が残されているのか。
裏面には何が書かれているのか。
別の資料と矛盾していないか。
そうした確認を重ね、分からないものは「分からない」として残します。
AIは大量の資料を整理したり、離れた場所に書かれている情報同士の関係を見つけたりすることが得意です。一方で、作品を実際に見て判断することや、資料そのものの信頼性を評価すること、最終的な展示方針を決めることは、人間が担わなければなりません。
当館では、長野県の美術館で長く実務に携わってこられた小林明先生から、展示やキャプションについてご指導をいただいています。
AI学芸員の能力を活用しながらも、AIだけに頼らない。
これは、これからも大切にしていきたい考え方です。
美術館の仕事は、作品を壁に掛けて終わりではありません。
誰が描いたのか。
いつ描いたのか。
どこを描いたのか。
どの展覧会に出品されたのか。
そして、その作品が画家の生涯の中でどのような位置にあるのか。
一つずつ調べていくことで、最初は一枚の絵だったものの後ろに、画家の人生や時代が少しずつ見えてきます。
AI学芸員は、その調査を手伝う新しい道具です。
そして面白いことに、資料を読ませれば読ませるほど、AI学芸員から返ってくる答えも変わってきます。
当館にとって必要なのは、世界中のあらゆる美術について何でも答えるAIではありません。
山下大五郎や足立源一郎、そして当館が所蔵する作品について、資料を積み重ねながら理解を深めていくAIです。
明日は、山下大五郎についての資料をさらに読み込ませる予定です。
人間が作品を集め、現物を確認し、資料を残す。
専門家から助言をいただく。
そしてAIが大量の情報を整理し、調査を補助する。
小さな私設美術館だからこそ、こうした新しい方法も試していきたいと思っています。
AI学芸員がこれからどこまで成長するのか。
館長自身も楽しみにしています。